嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
外回りや打ち合わせなど、端から見ていても大変そうだから、私にできることがあれば手助けはしたいと思っていた。

でも、素直に『手伝う』と言うのは照れくさい。
だから、頼みごとをされたときは『貸しだから』と付け加えていた。

同期という対等な立場だからこそ、その方がお互いに気兼ねなく頼れる気がしていた。
このやり取りは定番になっているけど、実際にその貸しを返せとか言ったことは一度もない。
そもそも、大変な人を無償で手伝うのは当たり前のことだ。

だけど、新庄くんは毎回『この前のお礼』と言って、コンビニの袋を差し出してくる。
中にはお菓子やスイーツが入っていて、カスタードプリンは必ずといっていいほど入っていた。
以前、私が好きだと言っていたことを、覚えてくれているんだろう。
その些細な気遣いがどうしようもなく嬉しかった。

「これ、クリップじゃなくてホッチキスで留めていいんだよね?」

私は資料の束を持ち上げて尋ねた。

「あぁ、できたら俺の机の上に置いといて。じゃ、よろしくな。行ってくる」

「了解。行ってらっしゃい」

新庄くんは鞄を手に、慌ただしくフロアを出て行った。

私は渡された資料を一部ずつ揃え、ホッチキスで留めていく。
出来上がった資料の束を新庄くんの机の上に置いた。

すべて終わり、休憩でもしようかと思っていたとき。

「麻里奈ちゃん。会議室にコーヒー三つ、お願いできる? 全部ブラックで」

営業の今泉(いまいずみ)部長に声をかけられた。
< 4 / 9 >

この作品をシェア

pagetop