嘘をつく唇に優しいキスを
「そんな風に見えちゃいました?最近、新庄くんはイベントに向けて忙しいみたいだし、邪魔しちゃ悪いかなと思ってるだけで、ケンカとかしてませんよ」
「そうなのね。二人の掛け合い漫才みたいな会話が聞けないから寂しかったのよ」
どうにか必死に誤魔化すと北見さんは安心したのか、大きな口を開けてワッフルを食べた。
「そういえば、あれ以降、太田さんから紹介の話は蒸し返されてないんだよね?」
「はい。特になにも言われてないですよ」
「それならいいけど。まだ懲りてないと思うから油断は出来ないわね」
「そうですね」
そう言いながら何気なく給湯室の入口に視線を向けると人が立っていた。
その人物を見て、ハッと息をのんだ。
「あら、新庄くんじゃない。コーヒー?」
「はい」
「ついでに淹れてあげるわ。ワッフルも食べる?」
「いや、コーヒーだけでいいです」
「了解」
北見さんがマグカップを手にコーヒーを淹れている。
私は気まずくて俯いてしまう。
「北見さん、さっきの紹介の話って」
新庄くんの口から出た言葉に思わず顔を上げた。
もしかして話を聞かれてた?
そんなことをわざわざ北見さんに聞かなくてもいいじゃない。
焦りからこの場から逃げたい衝動に駆られる。
でも、入口を塞ぐように新庄くんが立てっているので私は身動きが取れない。