嘘をつく唇に優しいキスを
「あぁ、聞こえちゃった?この前の飲み会で麻里奈が太田さんからいい人を紹介してあげるって言われたけど、それがなくなったの。まぁ、いつもの大田さんの見切り発車で振り回されただけなんだけどね」
「そうだったんですか」
新庄くんからの視線が痛い。
あの時、私が紹介してもらうと言った嘘がバレてしまった。
「太田さんの紹介とか怖すぎるでしょ。変に断れないし。麻里奈にも早く彼氏が出来たら太田さんも仲人根性を出さないと思うんだけど。あっ、新庄くんの友達でいい人いない?」
「そうですね、考えてみます」
北見さーん!あなたも太田さん状態になってますけど。
私のことは放っておいてください。
てか、新庄くんも考えてみますなんて言わなくていいから!と心の中で抗議する。
「はい、コーヒー。じゃ、お先に」
北見さんは新庄くんにマグカップを渡すと給湯室を出て行った。
私も慌てて出ようとしたら、新庄くんに呼び止められた。
「紹介の話、嘘だったんだな」
「う、嘘じゃないよ。ホントに紹介の話はあったもん」
なんであの時の話を蒸し返されなきゃいけないのよ。
私だって、嘘をつきたくてついたんじゃない!
新庄くんの視線が私を憐れんでいるように見えて居たたまれなくなった。
もう惨めで情けない。
「じゃ、私は仕事に戻るから」
飲みかけのマグカップを手に、逃げるように給湯室を後にした。