嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
以前、太田さんから聞いたことがあった。
私が入社する前は、北見さんが花田社長の孫のポジションだったらしい。
新しい子が入社してくるたびに、その役目が引き継がれていくのが恒例らしい。

「理恵ちゃんか。キャラメルは麻里奈ちゃんの分しかないけど、もちろんみんなへの土産はあるよ。心配しなくても、太田さんの分もちゃんとあるから」

花田社長は、いたずらっぽく笑う。

「あら、本当ですか? ありがとうございます。それじゃ、今日のコーヒーは私が淹れて差し上げましょう」

太田さんは上機嫌に立ち上がる。
それを見て私と北見さんは思わず顔を見合わせて笑った。

花田社長が来ると、いつもこんなふうに笑いに包まれる。
一通りのやり取りが終わり、太田さんが花田社長を案内する。

「社長、こちらにどうぞ」

一階の奥にあるエレベーターへ向かい、古い扉の前でボタンを押す。
機械音が鳴り、扉が開いて太田さんと花田社長が乗り込んだ。

それを見届けた北見さんが立ち上がって、私のそばに来た。

「今日はなにを持ってきてくれたんだろうね」

そう言いながら、さっき花田社長に渡された紙袋を覗き込む。
袋には有名洋菓子店『ボンジェルム』のロゴが入っていた。
この店は、ショートケーキやタルトはもちろんだけと、焼き菓子もすごく美味しい。
私はクッキーが大好きで、よく購入していた。

紙袋の中には大きな箱が入っていて、北見さんはさっそく蓋を開ける。

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