嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「分かってるって。あっ、それより彼氏とデートとかしてるの?」
何気なく尋ねると、唯香ちゃんは一瞬目を見開いた。
「申し訳ないのですが、仕事中なのでプライベートなことはお話しできません」
キッパリとした口調で、私の質問をかわす。
さっきまであんなにフランクに話してたくせに、急に仕事モードになっている。
その切り替えの早さに、思わず苦笑いした。
確かに、ここは唯香ちゃんの職場だ。
彼女の同僚もいるのに、受付で恋バナなんてするべきではないなと思い直す。
「その話はまた今度、根掘り葉掘り聞くから覚悟しててね。ということで、近いうちに飲みに行こう、じゃ!」
「了解。お大事に」
唯香ちゃんに手を振り、歯科医院を出る。
自動ドアが開いた瞬間、むわっとした熱気が全身を包む。
「あつ……」
思わず顔をしかめた。
夏の日差しが容赦なく降り注ぎ、ジリジリとアスファルトの地面を照りつけている。
さっきまで涼しい場所にいたせいか、外に出た途端に汗が滲んできた。
こんな日は、冷房の効いた部屋で、冷たいものを食べたり飲んだりしたい。
そう思ったら、無性に氷のたくさん入った麦茶が飲みたくなり、私は足早に家へ向かった。