嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「はい。特になにも言われてないです」

「そうなのね。でも、太田さんはまだ懲りてないと思うから油断は禁物よ」

そんな話をしながら、何気なく給湯室の入口に視線を向けると、人が立っていた。
その人物を見て、ハッと息をのんだ。
いつからそこにいたんだろう。
心臓がドクンと大きく跳ねた。

「あら、新庄くんじゃない。コーヒー?」

北見さんがいつものように声をかけると、新庄くんは一瞬こちらに視線を向けてから、静かに頷いた。

「はい」

「ついでに淹れてあげるわ。ワッフルも食べる?」

「いや、コーヒーだけでいいです」

「了解」

北見さんがマグカップを手に取り、コーヒーを淹れ始める。
私は気まずくて俯いてしまう。

「北見さん、さっきの紹介の話って」

新庄くんの口から出た言葉に思わず顔を上げる。
もしかして話を聞かれてた?
背筋に冷や汗が流れた。

そんなことをわざわざ北見さんに聞かなくてもいいじゃない。
焦りからこの場から逃げたい衝動に駆られる。

でも、入口を塞ぐように新庄くんが立てっているので身動きが取れない。

「あぁ、聞こえちゃった?」

北見さんはコーヒーをマグカップに注ぎながら続ける。

「この前の飲み会で麻里奈が太田さんからいい人を紹介してあげるって言われたけど、それがなくなったの。まぁ、いつもの大田さんの見切り発車で振り回されただけなんだけどね」

「そうだったんですか」

新庄くんが淡々と答えた。
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