嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「はい、分かりました」

今泉部長はタブレットや書類を手に、部下の二人と一階奥の会議室へ足を進めた。
私は席を立って給湯室へ行き、コーヒーカップを棚から取り出す。
インスタントコーヒーを手早く淹れると、お盆にのせて会議室へ向かった。

ノックをして会議室に入ると、独特な空気が流れている。
テーブルの上には何枚もの書類が広げられていて、邪魔にならないようにコーヒーカップをそれぞれの前に置いていく。

会議室にいるのは、今泉部長と水内(みずうち)さん、それに町田(まちだ)さんだ。
今泉部長は四十代後半で、彼のデスクの上には家族写真が飾られていた。
休憩時間には、子どもの話をしていているのを何度も耳にしたことがある。
十歳年下の奥さんとの間に二人の子供がいて、かなりの子煩悩だと社内でも知られていた。

水内さんは私より五歳上だ。
仕事の話はするけど、雑談をした記憶がほとんどない。
必要なことだけを話す寡黙な人という印象だ。

反対に、町田さんは三歳上で、社内でも明るくてムードメーカー的な存在だった。
誰にでも気さくに話すし、年上だけどそこまで緊張せずに話せる人だ。
自然と周囲を明るくしてくれる印象がある。
ちなみに二人とも独身だ。

「イベントの時、来場者に花の種以外のプレゼントはどうするかな……」

今泉部長が資料に目を落としながら呟く。

「そうですねぇ、今回も無難に子どもには風船とかですかね」

町田さんが顎に手を当てながら答える。


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