嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「可愛いけど、平気で毒を吐くし。去年、私は『おばちゃん』て言われたんだよ。確かに結婚してたけど、まだ二十代なのに失礼しちゃうわ」

「暴言には要注意ですね」

「そうよ。なにを言われても気にしないことね。あのとき、私はスルースキルを身につけたわ。子どもの言葉を真に受けてたら身が持たないから、聞き流すのが一番よ」

「なるほど。参考になります」

確かに、子どもは思ったことを悪気なく口にする。
バルーンアートが上手くできなかったら『下手くそ』とか言われるかもしれない。
そのときは、北見さんに言われた通り聞き流して、笑顔で接すればいい。
とにかく、真面目に練習だけはしておこう。

北見さんのアドバイスに耳を傾けながら、何気なくバッグを漁っていたらスマホがないことに気づき、足を止めた。

「どうしたの?」

「スマホを会社に忘れたみたいなので、取りに戻ります」

今の時代、スマホがないのはかなりの痛手だ。
依存症というわけではないけど、常に手元にないと不安になる。

「じゃあ、私も一緒に戻るよ」

「いえ、それは申し訳ないので先に帰ってください」

「別に構わないよ」

「本当に大丈夫です。お気持ちだけ受け取りますね」

会社に戻るだけなのに、先輩まで道連れにするとかあり得ない。
なんとか引き下がらずにいたら、北見さんは折れてくれた。

「そこまで言うなら先に帰るね」

「すみません。お疲れさまでした」

軽く頭を下げた。
北見さんが駅の方へ歩く後ろ姿を見送り、私は来た道を足早に戻った。
< 46 / 103 >

この作品をシェア

pagetop