嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~

売り言葉に買い言葉みたいなやり取りは日常茶飯事だったし、さっきはムカついたけど今は全く気にしてなかった。

「あんなこと言うつもりはなかったけど、変な空気になってたから……」

やっぱり、わざと挑発するようなことを言って、空気を変えようとしたんだ。
あれは新庄くんなりに気を遣ってくれたってわけか。

「もういいよ。わざわざそんなことを言うために追いかけてきてくれたの?」

「まぁ……」

照れくさそうに頬をかく。

こういうところだよね。
なんだかんだ文句を言ったりするけど、最後にはちゃんとフォローしてくれる。

私はそんな新庄くんの優しさに惹かれたんだ……って、改めて自覚してどうするのよ。
脳内でひとり突っ込みしたあと、気持ちを振り払うように口を開く。

「新庄くんて、意外とそういうところを気にするんだね」

「意外って失礼だな。俺は繊細な男なんだよ」

そう言って、新庄くんは口を尖らせる。

「はいはい、そうですか。って、まだ仕事残ってるんじゃないの?」

「あ、そうだった。送れなくて悪いけど」

「だから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。気持ちだけで十分だから、早く仕事に戻って」

「おぅ、じゃあまたな。気を付けて帰れよ」

新庄くんは踵を返して、会社へ戻っていく。
その背中を見つめながら、ため息をついた。

砕け散った恋心に、息を吹き返すようなことはしないで欲しい。
まあ、新庄くんは同僚として気を遣ってくれたんだろうけど。

今の私には彼の優しさが、ありがたくもあり辛かった。
< 48 / 103 >

この作品をシェア

pagetop