嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
売り言葉に買い言葉みたいなやり取りは日常茶飯事だったし、さっきはムカついたけど今は全く気にしてなかった。
「あんなこと言うつもりはなかったけど、変な空気になってたから……」
やっぱり、わざと挑発するようなことを言って、空気を変えようとしたんだ。
あれは新庄くんなりに気を遣ってくれたってわけか。
「もういいよ。わざわざそんなことを言うために追いかけてきてくれたの?」
「まぁ……」
照れくさそうに頬をかく。
こういうところだよね。
なんだかんだ文句を言ったりするけど、最後にはちゃんとフォローしてくれる。
私はそんな新庄くんの優しさに惹かれたんだ……って、改めて自覚してどうするのよ。
脳内でひとり突っ込みしたあと、気持ちを振り払うように口を開く。
「新庄くんて、意外とそういうところを気にするんだね」
「意外って失礼だな。俺は繊細な男なんだよ」
そう言って、新庄くんは口を尖らせる。
「はいはい、そうですか。って、まだ仕事残ってるんじゃないの?」
「あ、そうだった。送れなくて悪いけど」
「だから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。気持ちだけで十分だから、早く仕事に戻って」
「おぅ、じゃあまたな。気を付けて帰れよ」
新庄くんは踵を返して、会社へ戻っていく。
その背中を見つめながら、ため息をついた。
砕け散った恋心に、息を吹き返すようなことはしないで欲しい。
まあ、新庄くんは同僚として気を遣ってくれたんだろうけど。
今の私には彼の優しさが、ありがたくもあり辛かった。