嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「こっちに座ろうか」

唯香ちゃんに促され、カウンターの端の席に腰を下ろす。

「私はいつものジントニックで。麻里奈はどうする?」

唯香ちゃんは迷いなく注文すると、バーテンダーの男性は「了解です」と頷き、手際よくグラスなどを用意し始める。
私は手元にあるメニューを見て、少し悩んでからモスコミュールを注文した。

しばらくして、目の前に置かれたグラスを手に取り、一口飲む。
程よい甘さと爽やかな炭酸で、スッキリと飲める。

仕事の話や近況報告をしていたら、唯香ちゃんがふと思い出したように口を開いた。

「そういえば、あの片想いの彼はどうなったの? まだ彼女と別れたりしてない?」

その言葉に小さく肩が跳ねる。
まだ、完全には吹っ切れていないので、新庄くんのことを考えると胸は痛む。

「別れないどころか、結婚の話があるみたい」

私はグラスを揺らしながら苦笑いした。

「えっ? その人結婚するの?」

唯香ちゃんが目を丸くする。

「あ、いや、直接結婚するとは言ってなかったんだけどね。飲み会で新庄くんが結婚するときは、社長に挨拶をお願いするとか言ってたのが聞こえたの」

あのときの衝撃は今も忘れられない。

本人の口から『結婚する』と聞いたわけではない。
だけど、その言葉は私の胸に突き刺さった。

新庄くんに彼女がいると知ってから、彼はただの同期で、それ以上でも以下でもないと自分に言い聞かせてきた。
だけど、仕事で困っていると助けてくれたり、何気ない一言で笑わせてくれる。
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