嘘をつく唇に優しいキスを

「麻里奈ちゃんは忙しそうにしていたし、今日は社長として来たんじゃなくておじいちゃんとしてお孫さんと一緒だったから声はかけなかったらしい。そのお孫さんが犬の風船をもらったとすごく嬉しそうに話してくれたって社長が喜んでたよ」

「そうだったんですね。喜んでもらえてよかったです」

風船をあげた子はみんな嬉しそうに受け取ってくれて、その顔が見れただけで頑張ってよかったなと思えた。

子供たちに大人気のバルーンアートは用意していた風船を全部配り終わり、あとは手持ちの風船のみ。

普段、たくさんの子供と接することがないからイベントに参加出来てすごく楽しかった。
大変だったけど。

「そうだ。これ、俺の彼女からの差し入れのお菓子」

そう言って綺麗にラッピングされた袋を取り出した。

「いいんですか?っていうか、町田さん彼女いたんですね」

「あー、実はね。でも会社で言うと飲み会の時にからかわれるだろ。それが面倒だからフリーってことにしているんだ」

「なるほど」

確かに飲み会でそういう話題になり、みんな面白がって騒いでいる。
新庄くんがいい例だ。

会社の人に彼氏彼女の有無を言う必要もないし、町田さんの考えは正しいかもしれない。

「彼女に麻里奈ちゃんの話をしたら妙な親近感を覚えたらしい」

「どういうことですか?」

というか、町田さんがどうして彼女に私の話をしているのかが謎だ。
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