嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「朔斗、照れて引っ込んじゃった。こういうこと絶対に自分から言わない人なのに、珍しいな」

唯香ちゃんはくすっと笑う。

「そうなの?」

「うん。あのね、私も朔斗に片想いしてたとき、同じように胸が痛くなってたから、麻里奈の気持ちは分かるつもり」

私は静かに唯香ちゃんの言葉に耳を傾ける。

「片想いのときってさ、なにをしても気持ちが楽になるわけじゃないんだよね。少しでもその痛みを和らげるために、なにかに縋りたくならない?」

「うん」
 
「緊張したときに手のひらに"人"って書いてのみ込むと落ち着くとか言うでしょ。それと同じような意味で、気休めかも知れないけど……朔斗はそのカクテルを飲んで、少しでも胸の痛みを和らげて、前を向いてほしいって思ったのかも。まあ、分かんないけどね」

唯香ちゃんはカウンターの奥へ視線を向ける。
私は彼女の言葉を聞きながら、目の前のグラスをじっと見つめた。

「誰にだって、幸せは平等にあると私は思っているから」

唯香ちゃんは優しく笑った。
私はグラスを手に持ち、一口飲んだ。

カカオの甘い香りとほろ苦さが口の中に広がり、炭酸が舌の上で弾ける。
甘いのに、どこか大人びたような味だった。

恋する胸の痛み、か……。
今の私に合っている気がする。
この一杯でなにかがすぐに変わるわけではない。
だけど、このカクテルを飲んだら前に進めるかもしれないと思えてくるから不思議だ。

朔斗さんや唯香ちゃんの気遣いに感謝しながら、カカオフィズを飲み干した。

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