嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「ご、ごめん」

急いで横断歩道を渡る。
足を動かしながらも、さっき見た光景が頭から離れない。
新庄くんと並んで歩く彼女の姿、お似合いだったな……。

横断歩道を渡り終えたところで、伊織くんが声をかけてきた。

「麻里ちゃん、大丈夫?」

「なにが?」

「いや、なんか様子がおかしいから」

「そ、そんなことないよ」

私は咄嗟に笑顔を作り、平静を装った。

だけど伊織くんは少し眉を寄せ、納得していない表情で私をじっと見つめている。
その視線に耐え切れず、私は目をそらしてしまった。
少しの沈黙のあと、伊織くんが静かに口を開く。

「さっきの人たち、知り合い?」

「えっ……」

「カップルがいただろ。あの二人を見たあと、麻里ちゃんが急に黙り込んだから」

その言葉に心臓が大きく跳ねた。
伊織くん、気づいてたんだ。
私は小さく息を吐いた。
このまま誤魔化し続けることはできない気がして、私は口を開く。

「前に話したでしょ。私が片想いしていた、彼女のいる同期」

以前、加奈子さんに『彼氏はいないの』と聞かれたときに、新庄くんのことを話したことがある。
その話を伊織くんも聞いていた。

「あー、あの人が」

「うん。で、結婚するって話が出てるみたいで……必死に諦めようとしてるところ」

「そっか……。そりゃ辛いよな」

伊織くんは一度、視線を落としてから私を見る。

「麻里ちゃん、無理に笑わなくていいよ」

「えっ」

「だって、好きだった人が結婚するかもしれないんだろ。辛いなら辛い、しんどいならしんどいって、言っていいんだよ」

伊織くんが穏やかな声で話す。

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