嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~

「取りあえず、落ち着いたな」

「うん、手伝ってくれてありがとう」

「別に礼なんていいよ。ちょうど手が空いてたし。それより、桜井がテンパってる姿を初めて見たわ」

フッと意地悪く鼻で笑う。
せっかく素直にお礼を言ったのに、余計な一言で台無しだ。

そういえば、新庄くんはあっという間にバルーンアートを習得した。
悔しいことに、私よりも早く作れるようになり、賭けは私の負け。
器用でセンスあるとか不公平なんだけど。

『はい、俺の勝ち。なんでもいうことを聞けよ』

勝ち誇った笑みを浮かべる新庄くんの、得意げで憎たらしい顔は今も脳裏に焼き付いている。

「髪、切ったんだな」

不意にそんなことを言われ、ドキッとする。

「あ、うん」

昨日、仕事終わりにいきつけの美容室に行った。
そこは、美容師さんひとりで切り盛りしている小さな美容室で、完全予約制。
仕事終わりでも立ち寄れるように、夜遅くまで営業してくれるのでありがたい。

毛先が痛んでいたこともあり、思い切ってバッサリ切るのもいいかなと思った。

ちょうど心機一転したかったこともあり、胸まであったアッシュブラウンの髪をショートボブにした。
髪を切ったからって、私を取り巻く状況はなにも変わらない。
それでも、気持ちは髪と一緒で軽くなった気がする。

こんなに短くしたのは子どもの頃以来で、鏡に映る自分の姿に違和感があってまだ慣れない。

何気なく短くなった髪を触っていたら、なぜか新庄くんがじっと私を見ていた。
もしかして、髪型がおかしいんだろうか。
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