嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「それならよかったです。なんか周囲に迷惑をかけて申し訳ないです」
「気にすることないよ。イベントにトラブルはつきものだし、それをどう対処して成功に導びけるかが大事だしね。今回、新庄くんはいい判断したと思うよ」
北見さんの言葉にホッと息を吐く。
「実質、麻里奈がバルーンアートをひとりで任されてるでしょ。新庄くん、町田さんが忙しくしてるのを見ていたから、イベント初参加の麻里奈のことが心配だったのかもね。持つべきものは気が利く同期ね」
「確かにそうですね……」
新庄くんには何度も助けられているので、素直に頷いてしまう。
「でしょ。まぁ、困ったときはお互い様だからね。じゃ、私も戻るわ」
北見さんは手を振り、元いたブースへ歩いて行った。
なんなのよ。
新庄くん、手が空いてるって言ってたくせに……。
自分の仕事もあるのに私のことをフォローしに来てくれるなんて、まるで恋愛マンガのイケメンヒーローみたいだ。
でも、私はその物語のヒロインにはなれないただのモブ。
ヒーローの同期でしかない……って、自分で考えていて虚しくなる。
困っているときに助けてくれるのは、すごくありがたかった。
でも、その優しさを勘違いすることはない。
ため息をついていると、小さな女の子の声がした。
「おねえちゃん、あのわんちゃんつくって」
その子は、テーブルの上のサンプルの犬を指差す。
「あ、ごめんね。今すぐ作るから」
気合を入れ直し、風船を膨らませ始めた。