嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
「お疲れさまです」
町田さんに声をかけると、彼は小さく手を挙げる。
「お疲れさま」
テーブルの上の弁当を取ると、町田さんは私の向かいの席に座った。
「麻里奈ちゃん、バルーンアート任せっきりで手伝えなくてごめんな。忙しかっただろ」
町田さんは申し訳なさそうに頭をかく。
「確かに忙しかったですけど、新庄くんがヘルプに来てくれたのでなんとかなりました。町田さんは掛け持ちだし、仕方ないですよ」
むしろ、町田さんは自分のブースの方を優先するべきだと思う。
バルーンアートより、町田さん本来のブースの方が重要だ。
それでも、こっちのことも気にかけてくれただけで、私は十分ありがたかった。
「ありがとう。そう言ってもらえて、少し気持ちが軽くなったわ。あっ、そういえば花田社長に会ったんだ」
「そうなんですか? 来られてたの、気がつきませんでした」
返事しながらも、内心は焦っていた。
バルーンアートを作ることに必死になっていて、周りの様子なんてほとんど見えていなかった。
誰かに声をかけられたとしても、ちゃんと気づけていたか自信はない。
花田社長だけじゃなく、知り合いの業者の人とかにも失礼なことはしていなかっただろうか。
作業に夢中になっていただけなのに、無視したと思われていたら……。
そう考えると、急に不安になってきた。
「今日は社長として来たんじゃなくて、おじいちゃんとしてお孫さんと一緒だったから声はかけなかったらしい。それに、麻里奈ちゃんは忙しそうにしてたから、遠目で見ただけだって」
町田さんは、私の考えてることを見透かしたかのように話す。