嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~

「ありがとうございます。詩織さんによろしくお伝えください」

「了解。あっ、そうだ。クッキーは麻里奈ちゃんの分しかないから、他の人には秘密な!」

町田さんは悪戯っぽい表情で『しー』と人差し指を唇にもっていく。

「もちろんです」

私もつられて笑ってしまった。

「なにが秘密なんですか?」

突然、背後から声がして体がビクッと跳ねた。
慌てて振り向くと、新庄くんがすぐそばに立っている。
いつの間に休憩室に入って来たんだろう。

今の話、聞かれてないよね?
一瞬、そんな不安がよぎったけど、話していたのはクッキーのことだ。
別に新庄くんに聞かれたところで、困るような話ではない。

チラッと町田さんを見ると、彼は新庄くんに視線を向け、首を横に振った。

「あー、なんでもないから気にすんな。新庄も早く飯を食えよ」

町田さんはなに食わぬ顔で言うと、弁当の蓋を開けて食べ始めた。
新庄くんは怪訝そうな表情を浮かべながら、テーブルの上にある弁当を取って、空いている席に腰を下ろす。

それにしても、クッキーの話を内緒にする必要があったんだろうか。
女性社員なら内緒にするのも分からなくはない。
でも、相手は新庄くんだ。

なにか、町田さんなりの思惑があったんだろうか。
そんなことを考えながら壁時計を見ると、そろそろ午後の部が始まる時間が近づいていた。

「それじゃあ、私はお先に失礼します」

「おー、昼からも頑張ろうな」

町田さんに声をかけられ、私は食べ終えた弁当箱ともらったクッキーの袋を持って立ち上がる。
新庄くんにも「お先に」と言って、私は休憩室をあとにした。
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