嘘をつく唇に優しいキスを~諦めた恋が動き出すとき~
午後の部が始まって一時間も経たないうちに、用意していたバルーンアート用の風船はすべて配り終えてしまった。
残りの休憩時間を使って、午後に備えて犬と剣を作っていたけど、それもすぐになくなった。
午前に比べて、明らかにお客さんの数が増えている。
ブースの前にはたくさんの子どもたちが並び、風船を作っては渡しを繰り返す。
その様子を見た町田さんもブースに入ってくれ、二人で対応することになった。
予備のバルーンアート用の風船も膨らます。
それもすべてなくなって、配布終了になった。
今は、棒付きの風船を膨らませている。
「麻里ちゃん!」
名前を呼ばれて顔を上げた。
すると、伊織くんが紙袋を手にこちらへ歩いてくる。
「あれ、伊織くんじゃん。どうしたの?」
「さっきまでカフェでお茶してたんだ。それで、麻里ちゃんに差し入れをしようと思って」
そう言って紙袋を差し出してくる。
「えっ、いいの? ありがとう」
「どういたしまして」
受け取った紙袋の中を覗いてみると、小さな焼き菓子がたくさん入っていた。
その奥には包装された箱まで入っている。
「もしかして、これを渡すだけのために来てくれたの?」
私が尋ねると、伊織くんは首を横に振った。
「いや、実家のカーポートが壊れていて、親父が修理したいって言ってたんだ。それで、麻里ちゃんの会社のイベントのことを思い出して、話を聞けたらなと思ってさ」
「そうだったんだ。担当者にいろいろ質問したら、丁寧に説明してくれると思うよ」
「分かった」
「それで、今日は加奈子さんは?」
「友達とホテルランチに行ってるよ。さっき、美味しそうな料理の写真が送られてきた」
伊織くんは、ポケットからスマホを取り出す。