笑顔をくれた駅員さん



「もう9時だ」





駅員さんが、腕時計を見ながら呟いた。





「嘘。時間経つの早いね。」






「な~。楽しい時間はあっという間に過ぎちゃうからな」






「たっ!たの!?」





楽しいって言ってくれた。





今日頑張ってよかった。





それに私もちょうど楽しかったねって言おうとした所だったからシンクロしたみたいで嬉しかった。







駅員さんの車に乗り込む。





「夜1人は危ないから、家まで送ってもいい?」






「いや、駅で下ろしてもらって大丈夫…」






「行きは莉子ちゃんの家知らなかったし駅集合の方が莉子ちゃんも緊張しないかなって思ったんだけど、さすがに9時は…」






うーん、と考え込む駅員さん。







右手を顎に当てて考え込んでいる姿がまた新しい癖を見つけれたみたいで心地よかった。






きっと私しか知らない癖。






「…ちゃん、莉子ちゃん?」






「っええ!?」






「どうしたの?俺の手になんか付いてる?」






駅員さんは自分の右手を確認し始めた。






「ち、違うよ!なんでもない」






「そっか。はは」





完全に意識が駅員さんの手に集中してしまっていた。





気持ちがバレてしまったら大変なことだ。





気をつけないと。





「やっぱり女の子だし心配だから送ってもいい?」






女の子…




駅員さんの発言に一々ドキドキする。





「じ、じゃあ…、お願いします。」








ラーメン屋さんから車でしばらく走る。






「莉子ちゃんの家ってこっち方面なんだね。」





「そうだよ。何も無いけどね!」






私の住んでいる町は本当に住宅地しかないくらい何も無かった。




だから子供の頃から友達の家で遊ぶのが基本だった。





「家ばっかだな。でも俺は好きだな…」





「なんで?」






「うーん。なんか暖かいかんじかな」






そう言いながら真っ直ぐ前を見つめる駅員さんの横顔はどこか寂しそうだった。



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