お願い!嫌にならないで
「あれは、山本さんが水野さんに怒られた日よりも後で……」
「そんなこと、ありましたっけ」
「ありましたよ! 俺が水野さんと話す為のきっかけに、契約書の書き方を教えてもらえって、提案してくれたけど『俺に仕事を押し付けた』って水野さんに思われて、叱られたじゃないですか」
「あ、あれか」
そして、中谷さんが咳払いをして言う。
「で、資料室に幽霊が出たって、騒いだ日より前」
彼女の言葉に、山本くんが凍り付く。
とても見覚えのある反応だ。
俺もその時の状況を思い出して、少し吹き出してしまった。
山本くんは、恐る恐る尋ね返した。
「へっ、幽霊……?」
「そ。幽霊」
「…………あの話って、本当だったのか? いや、知らん知らん、俺はそんな非科学的なもの、普段から信じてないからな!はっ、はははは」
異常な程、早口で言い切った後、最後に乾いた笑いが漏れている。
その様子を3人で見守っていたが、そろそろ限界だ。
気付けば、水野さんも笑いを必死に堪えていた。
「山本さん! 嘘! 嘘に決まってるじゃないですか」
明るく打ち明けた俺に続いて、中谷さんも堪えていた笑いを解放する。
「あははっ!はぁ、 もう……あんたって、本当にこういう系の話、苦手だよね」
「本当に嘘?」
「うん。あの時は突然、辻さんがアドリブし出すから、私も訳分からなくて」
「すみませんでした。でも、中谷さんと仲良くしてる時、山本さんに凄まれて、俺、怖くて怖くて……咄嗟に出たのがこんな嘘でした。まさか信じるとは」
「うわぁ、そうか……そういうことか。あきと辻さんが妙に仲良くなってたのも、そういうことか……」
山本くんが頭を抱えて、ぶつぶつ言い出す。
そして少しの間、黙り込み、思い出した様に顔を上げた。
「じゃあ、お2人が付き合い始めたの、大分前じゃないすか」