お願い!嫌にならないで



「つい最近、あの人と偶然、会って……」

「え! 何かされてませんか……?」



中谷さんが、前のめりになる。

山本くんも、水野さんを見つめていた。

水野さんは横に首を振ると、何の前触れもなく、俺の方を見るから驚いた。



「大丈夫。辻さんも一緒に居てくれたから。安心して、話が出来ました」



こちらを見ている、ただそれだけのことで、こんなにも胸が高鳴る。

水野さんの儚げな微笑みは、手を伸ばして、触れたくなる程に堪らない気持ちになった。

しかし、中谷さんは相変わらず、心配そうな面持ちで尋ねる。



「そうは言っても……。あいつとは主に何を話したんですか」

「あの時は私も必死で何を話したのか、あまり覚えてないけど……とりあえず、私の前には金輪際、現れないって」

「そんなの当たり前だろ。今まで執着の仕方が異常だったんだ」



先程まで黙っていた山本くんが至極、不機嫌そうに言う。

そして、中谷さんは眉をひそめたままだ。



「『金輪際』なんて強い言葉を使ったとしても、分かりませんよ。あいつことだし」

「自分が惨めになるだけだからって、今にも泣きそうな顔でそう言われたの。それだけは、しっかりと頭に焼き付いてる。今度こそ、きっと……大丈夫なの」

「なんで水野さん、そんなに自信があるんですか」

「いつも平気で話を流す時の余裕が、全く感じれなかったから。今回は確信を持てる」



中谷さんが目を見開く。



「水野さんが、そこまで言い切るなんて……びっくりしました」



心底驚いている中谷さんに、水野さんは満面の笑みで返す。

その笑顔に、中谷さんは安堵の溜め息を漏らした。



「水野さん、私……いつも思ってるんですよ?」

「……何?」
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