お願い!嫌にならないで
「私、水野さんには幸せになってもらいたいって、いつでも思ってるんですよ」
真剣に見つめる中谷さんの瞳に、水野さんも、それを横から見ていた俺も、思わずドキリとする。
俺まで反応したことに気付いた中谷さんは、俺を一瞥した。
「だから、辻さんからお二人がお付き合いを始めたって聞いて、本当に嬉しくてガッツポーズしました。何て言ったって、相手は引く程、一途で純粋な辻さんですからね」
「ちょっと! 引く程って!」
叫ぶ俺を無視して一呼吸おくと、口元をニヤけさせながら、頬を染める。
「『辻さんなら大丈夫だ』って。さっきの水野さんじゃないですけど、私も今回は確信が持てます」
「あ、あきちゃん……」
良い雰囲気の2人の間には、どうしても入れる気がせず、ジワジワと熱くなる胸を感じながら見守った。
すると、同じように見守っていた山本くんが、首の向きをこちらに変える。
そして、指の代わりに枝豆の皮で俺を差した。
「て、ことでしたら、辻さん……」
「え、何ですか……」
「今後、水野さんを泣かせるような真似したら、あいつの時みたく、ありったけの力でぶん殴りますからね」
「ぶ、物騒だな……」
「俺、割と本気で言ってるんで」
「肝に銘じておきます」
胸に手を当て、誓う。
水野さんと視線が合った。
──俺が必ず……。
「また何かあっても……俺が水野さんを守ります」
「つ、じさ……」
「俺を、信じてくれますか」
山本くんと中谷さんが見ている前でも、口走ったら止まらなかった。
小っ恥ずかしいことを言っているのも、分かっていた。
可哀想に、水野さんも顔が真っ赤だ。
唐突に始まった、俺の誓いに付き合わされて。
それでも、唇を震わせながら、ゆっくりと声を音にしてくれた。
「……はい」
俺は嬉しくて、思わず水野さんの手を握った。
山本くんと中谷さんからは、優しい拍手を贈られる。
2人はまるで人前式での証人の様で。
温かいこの空間で、俺たちは誓いを交わした。