愛し紅蓮の瞳
***

あれから、双葉さんのことは多代さんに任せて、それぞれ部屋に戻ることになったのはいいけれど、


双葉さんの様子が気になっていても経ってもいられない。


紅蓮は今どの辺りだろう。
こんな夜に一人で、大丈夫かな。


……って、紅蓮のことだから大丈夫に決まってるか。


「紅蓮、早く帰ってきて」


そう呟いて、咄嗟に口を抑えた。

口をついて出た言葉に、自分自身が一番驚いたから。



双葉さんのことが心配だから、紅蓮に早く帰ってきて欲しい……ただそれだけだと言い聞かせるけれど、


言い聞かせようとしている時点で、それだけが理由じゃないことなんて分かり切っていて……。


多分、私は双葉さんのことももちろん心配だし、お医者様の到着を願っているのも本当だけど。


同じくらい、紅蓮が無事に帰って来て、ムカつくくらい意地悪に笑う顔を早く見たいと思っているんだと思う。


……もしかしたら、自分でも知らないうちに私は紅蓮に惹かれているのかもしれない。


でも、仮に惹かれているんだとしても、それは置かれている状況がそうさせてるって言うか、

きっと錯覚のようなもので。


紅蓮の妃になるかもしれない、そう思う気持ちが……嫌でも紅蓮を意識させているんだと思う。
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