愛し紅蓮の瞳
そう言えば多代さんが、夜になるとこれ辺りにオオカミが出るって言ってた……。

紅い花のことばかり気に取られて、狼なんてすっかり忘れてた。


走る?いや、逃げ切れるわけない。
いっそのこと死んだフリするとか?


……それで捕まったら一巻の終わりだし。
もしかして私、ここで死んじゃうの?

そんなの絶対やだよ!?

まだやり残したことだらけだもん。


双葉さんのことだって助けなくちゃだし、それに紅蓮のことだって……。


この世界で生きるか、元の世界に帰るか、自分で選ぶことも出来ないまま死ぬなんて絶対やだ!



そうだよ、このままここで死ぬなんて絶対嫌なんだから!


───ザッ


今来た道を、一歩静かに後ずさる。


もし囲まれてたら完全にアウトだけど、抜けられるとしたら今来た道しかない。


……こうなったら、この道に望みをかけて全力で走ってやる!


勢いよく駆け出した私に気付いた狼が、一斉に走り出す気配を感じる。


怖気づきそうになる自分を必死に奮い立たせて、今はただひたすら走るしかない。


遠くに、もっと遠くに!そう思う気持ちとは裏腹に、雪に足を取られて上手く走れない。

苦手な寒さの中でかじかむ手足は、霜焼けのように痛痒さを伴う。
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