愛し紅蓮の瞳
***


もうどれだけ走っただろう。

白い息が、ただひたすらに夜の漆黒の中へ溶けて消えていく。



そう言えば私が暮らしていた世界も、ちょうどこんな季節だったな。

みんな元気にしてるかな……。

突然帰らなくなった私のこと、探してたりするかな?それともよくある、こっちの世界の1ヶ月は、あっちの世界の数分……とか?全然分からないや。



戻る方法も見つからないし、この先、本当に元の世界に戻れるのかも分からない。


だけど、今は……この世界で双葉様を助けて、出来ることなら紅蓮の力になりたい。

帰るのは、それからでも遅くないかな、なんて思い始めている自分がいることに気付いた。



随分、屋敷を南へ下ってきたように思う。


息が切れて、どんどん酸素が足りなくなるのを感じながらも、ひたすら走っていた私は、ここに来て初めて足を止めた。


「…………なに?」


気のせい?と、思いながらも耳を済ませれば、近くでグルルと獣の低く唸るような声が聞こえて、一瞬で恐怖に包まれた。


しかも、この感じ……もしかして囲まれてる?


四方八方から聞こえる音に耳を澄ませて、どうしたらいいのか分からない状況に一人狼狽える。

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