愛し紅蓮の瞳
「……馬鹿」

「な、何回も馬鹿馬鹿言わな」


───ギュッ


言い終わるより先に、紅蓮に強く抱きしめられて言葉を失う。

紅蓮の腕の中が温かすぎて、ジワリと涙が滲む。
さっきまでたった一人で、寒空の下をひたすら走っていたことがまるで嘘みたい。


「心配した」

「っ……!」


ジリジリと身体が熱を持っていく。

私を抱き竦める紅蓮の声が、やけに近くから聞こえて、それがこんなにも胸を燻る。


「で、でも、なんで?西風は?お医者様は?」

「医者を呼んで、先に一人で戻ってきた」

「だ、だって片道二時間はかかるって」

「あぁ。凡人なら、な?だから、医者は置いてきたんだろうが。付き合ってたら時間がいくらあっても足りねぇ」

「……そ、そうなんだ。鬼の力ってそういう面でも役に立つんだね」

「……いい事ばっかじゃねぇけどな」

「あ、うん。……そうだよね」

「なんだよ、やけに素直で気持ちわりぃな」

「はぁ?私はいつだって素直だし!」

「……フッ、でも。先に戻ってきて良かった」

「え?」

「……蘭が無事で、良かった」


そう言って優しく笑う紅蓮に、どうしようもなく胸が高鳴る。

トクン、トクンとリズムを刻みながら、私の心臓は、紅蓮にときめく音を奏でていく。
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