愛し紅蓮の瞳
「私も、紅蓮が来てくれて良かった」

「……やっぱ、素直で気持ちわりぃ」

「ちょっと!!人がせっかく……!!」

「話は屋敷に戻ってから、ゆっくり聞いてやる。とりあえず屋敷に帰って湯でも浴びろ」

「え?」


突然、フワッと身体が宙に浮いたかと思えば、紅蓮によって、勝手に紅蓮の首に手を回す形になった。


「この冷え切った身体じゃ歩けねぇだろ」

「だ、大丈夫!歩ける!下ろして、紅蓮!」


思いのほか近付いた紅蓮の顔に、呼吸するのも恥ずかしくて顔を俯かせれば、そんな私に意地悪い声が響く。


「すぐ赤くなるのは変わらねぇな」

「っ、あ、赤くなってなんか!って、そうだ!紅い花……」

「紅い花?」

「紅い花を煎じて飲ませれば、双葉さんの熱が下がるって。だから、探しに来たの!その途中で狼に追われちゃって……」

「……涼音か?」

「え?」

「涼音に言われたんだろ、紅い花の話」

「あ、うん……、涼音さんも双葉さんのこと心配して」

「ねぇよ、そんなもん。紅い花なんて存在しない」

「……嘘、だって涼音さんは」

「騙されたんだよ、馬鹿。そんな花があんのに、俺がわざわざ西風まで行くと思うか?」

「……い、言われてみれば」

紅い花で双葉さんが助かるなら、紅蓮も、薬を取りに向かった人たちも、


わざわざ時間をかけて西風へ向かうことなんかしないで紅い花を探しに出るはずだ。
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