愛し紅蓮の瞳
「これで、よし」


「ありがとう楓さん!」


「やっぱり女の子はいいわね。1人くらい欲しかった」


そう言って笑う楓さんに、「私が」と言いかけてやめた。ずっとこっちの世界にいるわけにはいかないもん。





変なことは言えない。
でも、楓さんの子供に生まれたら間違いなく幸せに思うだろうな。


出会って間もないけれど、こんなにも素敵な人だと感じたのは初めてだもん。


間違いなく、良きお母さんに違いない。
そんなことを思いながら楓さんに微笑み返した。



「母さん、入っても良いですか?」



突然、障子の向こうから男の人の声がして、楓さんの顔がパァっと明るくなった。



「おかえり。入っていいわよ」



スッと開いた障子の向こうには、紺地の着物を着た男の人が立っていて、とても柔らかい顔で楓さんへと微笑んだ。



「失礼します。ただいま戻りました。……このお方が例の?」


「えぇ、聖様がお助けになられた子よ」


ひじりさま……?なんだそれ?
でも、楓さんが私へと視線を移したところを見ると、「お助けになられた子」って言うのは多分私のことだろう……と、少しだけ背筋を伸ばして口を開いた。
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