愛し紅蓮の瞳
今にも消え入りそうな声で呟いてみても、長い廊下の先を歩く虎太くんはもちろん振り返ったりしない。角を曲がる虎太くんを見送れば、すぐにその足音すら聞こえなくなった。



「おい、蘭。早う来い」



───ドクン




代わりに聞こえるのは先に部屋へ入り、既に腰を下ろして私が部屋に入るのを待っているらしい紅蓮様のよく澄んだ声だけ。


……って、


呼び捨てかよ!!!!!!

しかもドクンってなんだ、ドクンって!!
違う、断じて私はときめいたりなんかしてないんだから。


急に名前を呼ばれて少しビックリしただけで、絶対にときめいてなんか……





「し、失礼します」


言われるがまま、紅蓮様の部屋へと足を進めれば、障子を閉めろと顎の先で指図されて少しムッとする。


本当にこの人は光蓮様の息子なの?

本当に気に障る嫌な奴!!!



障子をスっと閉めて、そのまま入口に一番近い場所に腰を下ろせば、一瞬紅蓮様が目を見開いた。


何?私変なことでもした?




「変な女だな」


「は?」


「先に行っておく、俺はお前みたいな阿呆づらには微塵も興味がない。気があって部屋にあげたわけじゃない、変な気は起こすな?」



笑うでもなく、怒るでもなく、ただ淡々と紡がれる言葉が、やけに私の耳に響く。
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