愛し紅蓮の瞳
……自分に気がある女の子を娶っても、その子の気持ちに応えてあげられないから

結婚相手にするなら、自分に気がない女がいいなんて。


そんなの、


「バカだよ、紅蓮」


私にはやっぱり、分からない。




「バカでいい。それで、皆が幸せに暮らせるなら、俺の幸せなんてなくていい」


「紅蓮……」


「俺が俺である限り、俺に課せられたのは化け物から与えられた妖の力で皆を守ること、ただそれだけだ」



ぐっと握りしめた拳を、苦しそうに自分の左胸に当てた紅蓮は、やっぱり泣いている。



『俺が俺である限り』



その言葉が、やけに鈍く私の胸にモヤを広げていく。


そうだ。
紅蓮の負の感情は、鬼に力を与えてしまうと光蓮様が言っていた。


鬼の力に飲み込まれた時、それは紅蓮の死とこの地域一帯の終わりを意味するんだと。



もちろん、全部本当の話だって頭では分かっているのに、どうしても夢物語のような気がして仕方ない。


目の前にいる、私と歳だって何ら変わらないこの男が、この世界の全てを背負っていると言っても過言ではないなんて。


絶対、どうかしてる。
紅蓮1人に全てを背負わせている人々も、心で泣きながら誰に助けを求めることもせず1人で背負い切ろうとしている紅蓮も。
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