狂愛彼氏


「あたしが言ったのはその逆。」

「逆?」

「気づいてないでしょ、自分がどんなに可愛いか」

「は?」


頭でもぶつけたか、目が悪い。
私が可愛い?
天と地がひっくり返ってもあり得ない。


「………あたしの苦労もしらないで」


ファンデーションを塗りながら愛麗はため息交じりに、でも楽しそうに言う。


「あんた素で可愛いの。………だから、あんな目にあったでしょ?」

「………ぁ、」


ゾクッと背筋に何か冷たいものが滑り落ちた。
愛麗は、眉を下げながら、すまなそうに言う。


「お互い、思い出したくないことだけど」

「愛麗……」

「まぁ、でも遥のお陰で今、あたしはこうしてここにいるんだし」


お互い、思い出したくないことがある。
それは、共通している。
今も時々瞼の裏によみがえる出来事。
きっと一生消えることはないんだろうなって思っている。





――――五年前、愛麗と私は、集団レイプされそうになった。
お互い顔も知らなくて、学校も違くて、偶々同じ道を歩いていただけの接点。


男達に捕まって、無理矢理連れてこられた場所で初めて顔を合わせた。


行為は幸いにも未遂で終わったけれど、一時期私は、全てを拒絶した。
何もかも、生きていることすら。
そんなときに、愛麗は、同じ被害者だからと一緒にいてくれた。
自分も辛いはずだったのに。


(………その後からだ)


暇さえ有れば私の学校や家に来ていた愛麗は、ある日化粧をして現れたのだ。



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