溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
もっと曲を吟味するべきだったかもしれないと一瞬思ったが、大成さんに初めて聞かせた曲を心を込めて奏でたいというのがそもそも選曲に至った理由なので、後悔はしない。


千代子さんのピアノは滑らかで、ミスタッチもない。
練習を積んできたことがわかるその音色は、会場の人たちを引き付けていた。

コンクールで優勝しただけのことはある。

最後の一音を弾き終わりピアノから指が離れると、たちまち拍手が沸き起こる。
私も、彼女の素晴らしい演奏に自然と手が動き拍手をしていた。
彼女に対する反発心はもちろんあるが、ピアノの奏でる音には罪はない。

この演奏に勝てるとは思っていない。
だけど、大成さんへの気持ちは負けない。


「それでは、西條さん、お願いします」


司会の人が私の名を呼ぶ。

私が緊張のあまり顔をこわばらせると、大成さんは落ち着いた様子で「楽しませてもらうよ」と言ってくれた。
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