溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
もちろん、ミスタッチはないほうがいい。
けれど、私はプロではない。ここにいる人たちが楽しかったと言ってくれればいい。

そう気持ちを鼓舞した。


さっきまで千代子さんが座っていたイスに座り、目を閉じて深呼吸する。
シーンと静まり返った会場は、妙な緊張感が漂っているものの、私は自分の演奏だけに集中することにした。


鍵盤に指を置き、第一音を奏でると、もうなにも気にならなくなった。

大成さんと出会ってからの楽しい日々が頭の中を駆け巡り、彼の笑顔を思い浮かべながら、心を込めて指を置いていく。


一度はあきらめてしまったピアノ。
それなのに再びこうして弾くことができているのは、大成さんのおかげだ。

彼は私の大切なものを取り戻してくれた。
しかも、それだけじゃなく……夢がいっぱい詰まった未来も見せてくれている。


『大好き』


私は心の中でつぶやく。

スイートで初めて会ったあの日。
こんな幸せな日々が待っているなんて、思いもしなかった。
< 313 / 363 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop