溺甘スイートルーム~ホテル御曹司の独占愛~
「あのっ……」


困ってしまった。
ハウスキーパーとしての仕事なら自信がある。
だけど、大成のお父さまが私を呼び出したのは、ハウスキーパーとしての役割を望んでいるわけではないのだろう。


「緊張しなくても大丈夫ですよ」


小声で耳打ちした中野さんは「さあ、どうぞ」と私を中に招き入れた。

そうは言っても……足がすくんでしまう。
心の準備というものがまるで整わない。


「呼びつけて申し訳なかったね」


部屋の中から声がしたものの、壁が邪魔をしてお父さまの姿が見えない。

思いがけず優しい言葉をもらった私は、意を決して中へと進み、頭を下げる。


「ハウスキーパーの西條です」

「八坂です」


ソファの中央で、たくさんの書類を前にしていたお父さまが、手を止め挨拶をしてくれる。
皮張りの大きなソファを見ると、大成さんが倒れていたことを思い出す。


「お邪魔にならないように清掃を始めさせていただきます。まずは、バスルームを……」

「いや、掃除はいいんだ。君と話がしたくてね」


そう、だよね……。
そう言われて背筋が伸びる。
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