約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)

戦のない世界。

なんでもないただ同じ日常が繰り返される日々が、
本当愛しい日々だったのだと強く感じる。



幕末で過ごした長かった時間。
だけど……戻って来た私は拍子抜けした。

どんな時間の魔法があったのか人々の記憶だけが、
意図的に何かによって書き加えられたのか。


両親の記憶の中から、私が消えた事実はなくなってた。

お祖父さまと、お祖母さまの中には、
鏡が映し出したあの記憶がしっかりと残ってる。


そして視線を向けた先の小箱。

その小箱の中には、
昔、私と瑠花と舞の三人で作ってそれぞれに大切に持っていた匂袋。

私が持ち歩いていた匂袋は、あの最期の日。
舞の元へと渡り、ここにあるのは舞がずっと身に着けていたお守りの匂袋。


この匂袋を見る度に、
舞のことをずっと思い出し続けることが出来たと感じるから。


「舞、行ってくるね。
 山崎さんと出掛けてくるよ。

 なんか入院してたらしい沖田さんも、今日、無事に退院できるみたいだしさ。
 こんな日が現代で来るなんて思いもしなかった」

そう声をかけると、私は部屋の電気を消して玄関へとむかった。



「花桜、出掛けるんじゃな。
 敬里の迎え、頼んだぞ。
 この封筒の中にはお金が入ってる。入院費用の清算も頼んだぞ」

「はいっ。
 行ってきます」

「あぁ。
 気を付けていっておいで。

 岩倉さんにお会いしたら、良くお礼を言っておいてくれ」


お祖父ちゃんに見送られて、私は山崎さんと二人、
沖田さんが過ごしている病院へと向かう。


バスや電車を乗り継いで、
山崎さんとこうやって歩いている不思議。


だけど今日は時折、強く山崎さんの視線を感じてしまう。



「どうかしましたか?」

「いやっ、どうってわけじゃないんだけど……。
 堪忍な。

 さっきから……ちょっと、頭の中が靄(もや)ってたのが、
 薄れていくような……」


そう言いながら山崎さんは、
何かを考えるように黙り込んでしまった。



最寄り駅で降りて病院までの道程を歩いていく時、
ふいに……背後から『花桜ちゃん……』っと懐かしい呼び方で私の名を呼ぶ愛しい声。



「花桜ちゃんや、花桜ちゃん。
 あっ……、わい……なんや、此処?」

急に戸惑いだす山崎さんが面白くて、懐かしくて。
思わずクスクスと笑ってしまう。

「酷いなぁ、花桜ちゃん。
 わいっ、本気で戸惑ってるんやで」

「向こうに行ったとき、私もそうだったもの」

「あぁ、花桜ちゃんがわいの上に降ってきた日。
 あれは、衝撃やったわ。

 人が頭上から降って来るなんて経験、滅多に出来んからなー」


そう言って懐かしそうに笑う仕草に、
私は人の目も考えず抱き着いた。


「なんか……わいが知ってる花桜ちゃんより、
 逞しいなってるか?」

なんて笑いながら。


「積もる話はゆっくりね。
 
 ここは私と瑠花が住んでた世界。
 山崎さんは、山波敬丞として今は生活してるの。

 今から沖田さん、あっ今は山波敬里って名前なんだけど、
 病院、えっと療養所に迎えに行ってるの。

 そこには瑠花も待ってるから」


そうやって告げると、驚いたような顔をしながらも
状況を飲み込んでくれたみたいだった。


広い病院のエントランスから、
特別室へと続くエレベータを上り病室へと顔を出した。



「こんにちは。
 退院準備出来た?」


なかなか、普段通りに話そうとしても、
私の中では今の敬里は沖田さんで、意識してしまうんだけど……。

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