約束の大空 3 ※ 約束の大空1&2の続編。第四幕~(本編全話 完結)


目が覚めたのは、見知らぬ布団の中。

「あっ、舞、目が覚めたの?
 おはよ」

そう声をかけたのは花桜。

「布団でゆっくりと眠るなんて久しぶりだよね。
 この場所は、昨日、斎藤さんが案内してくれたの。

 当面の間、私と花桜が生活する長屋だって。
 新しい着物とか、当面の生活に必要なものも預かったんだ」

「花桜……敬里は?」

「あぁ、あいつは医学所。
 もうあのバカ、熱出して寝込んでるってさ。

 まぁ、今日もお見舞いに顔くらいは出してやろうとは思ってるの。
 でもその前に、舞に朝御飯食べて欲しいじゃん」

そう言って花桜は私のそばに、芋汁を椀にいれて運んでくる。

「はい」

一つは私の手に持たせて、
再び炊事場から、もう一つのお椀を手にして戻ってきて、私の向かい側へと腰を下ろした。

「食べよっか。いただきます」

「いただきます」

花桜に続いて、手を合わせて声を出してから、
お箸を使って口元へとゆっくりと運んだ。

寒い日に体がほっとするぬくもり。

「美味しい。花桜」

「よかった。
 食べ終わったら、お湯を沸かしてるから体を手拭いで拭いちゃいなよ。 
 さっぱりするよ」

そう言った花桜をよく見ると、もう山南さんの羽織も聖フローシアの制服も身に着けてない。

「花桜、制服と羽織は?」

「もう散々な状態。
 どうしよっかなー、向こうの世界に戻ったら、お母さんにめちゃくちゃ怒られそうなんだけど、
 幕末で破ったなんて言えないよね。

 だけどボロボロになっちゃったけど捨てるなんて出来ないから、
 出来るだけ洗って、繕えるところは繕って大切に持ってたいとは思ってる」


そう言って、花桜は今は部屋の片隅に干してある制服と羽織へ視線を移す。


山崎さんが居なくなって、扉が開いたのは確か。
彼が亡くなったのか、向こうにワープしたのかは私にもわからない。

だけど今まで花桜の傍で、暖かく包んでいたその存在は今はいない。

それでも花桜は前に歩き出してる。
だから私も、この先、何があっても、自分の決意から逃げることなんて許されない。

それだけは決して変えることの出来ない思い。

自分に何度も言い聞かせると、私は芋汁を口の中に流し込んで「ごちそうさまでした」っと
花桜に声をかける。

用意してくれたお湯を手拭いに浸して、
泥や血を含む汚れをゆっくりと拭っていくたびに、心にわだかまるモヤモヤも少しずつ晴れていく。

さっぱりとした気持ちで真新しい着物に袖を通すと、
洗い物を終えた花桜と共に、敬里が療養する医学所へと、長屋から歩いて向かう。

医学所の一室。
敬里は別の偽名を記されて眠っていた。 

顔を赤らめながら眠ってるアイツの額に、そっと手を伸ばす。

すると閉じられていたアイツの目がゆっくりと開いた。


「って、来てたのかよ。
 少しくらい、お前らはゆっくりしてろよ」

「うるさい、敬里。
 病人はおとなしく寝てなよ。

 風邪ひくなんて、ばっかじゃないの?
 バカは風邪ひかないんじゃなかったの?」

って花桜は、顔を合わせたとたんに憎まれ口叩いてる。


ずっと昔からの、この二人のコミュニケーションはずっとこんな感じだった。

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