遠くに眠る

「ヒカルゥ~」

甘ったるい声と、フルーツの甘い香りを漂わせてきたのは、花恋。
花恋とは、切っても切っても切れない腐れ縁ってやつだ。
幼なじみともいう。
幼少期から、ずっと…。


「なんだよ?」

「ここ、わかる?」


花恋が僕に答えを聞いてくるときは、よっぽどの事がないかぎり来ない。
きっと、どう頭をひねっても、分からなかったのだろう。
でも、花恋がわからない問題を、僕が解けるはずがなかった。


「あ、函南さん、これ、わかるかな?」

「かして」


函南さんは、素早く紙を受け取ると、その上にペンを滑らせた。
気付いたこと。
函南さんは、字が綺麗。
綺麗だとは想像では思ってたけど、想像以上に綺麗だった。
癖のない、滑らかでいて、力強い。
彼女そのものの字だった。
そしてもう一つ、手が綺麗。
指が細くて、シャーペンを正しく持つ様は、まるでお手本の写真みたい。


「わぁ、ありがとう!すっごいわかりやすい!今度から、函南さんに聞いてもいい?」

「私でよかったら」


軽く口角をあげた。
笑ったよりも、微笑んだに近いけど、微笑んだ顔にも見えなかった。
この時思った。きっと同性の方が、函南さんも話しやすいのかもしれない。











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