私の上司はご近所さん
「そういう問題じゃなくてさ……。もちろん百花のウチの料理はおいしいよ。でも食堂じゃ、恋愛気分も盛り上がらないって言うか……」
同期入社の結衣は、何度かウチに来たことがある。
観葉植物が置いてあるわけではなく、ソファ席もない、食後のコーヒーもデザートも出ないウチの食堂は、たしかにムードに欠ける。
そもそも恋愛に無縁の私が結衣と部長のセッティングをしようとすること自体、無理があったんだ。
自分の恋愛偏差値が低いことを嘆いていると、歓送迎会で得た情報を不意に思い出した。
「あっ、そうだ。結衣、部長って彼女いるんだって」
部長と一緒にタクシーで帰って来たのだから、彼女についてもっと聞いておけばよかったと、今さら後悔した。
「百花。明日、私パス」
スマホから聞こえてきた結衣の声は暗く、あきらかに沈んでいるとわかる。
「ええ~! どうして?」
「なんか急に冷めたっていうか……。やっぱり彼女がいる人を好きになっても虚しいと思うし……」
ジュジュ苑の焼肉をごちそうしてもらえる。そのことで頭がいっぱいになり、部長に彼女がいると知りながら結衣を紹介しようとしていた自分の軽率な言動を猛反省する。
「結衣、ゴメンね」
「ううん。藤岡部長に紹介してほしいと言ったのは私だよ。百花ががんばって藤岡部長を誘ってくれたのに、こっちこそゴメンね」
私の耳に聞こえてきたのは、結衣の優しい言葉。
彼女の気遣いに感謝して、この日は通話を終わらせた。