私の上司はご近所さん
家に帰って自室に入るとバッグからスマホを取り出す。チマチマ文字を入力するよりコールした方が手っ取り早い。結衣のナンバーを表示させると通話ボタンを押した。
「もしもし、百花? 歓送迎会どうだった?」
数回の呼び出し音の後、結衣が出る。
「結衣、明日ウチに来て!」
「百花? 急にどうしたの?」
「明日、部長がウチに来るの!」
歓送迎会はどうだったのかという結衣の質問には答えないまま、一方的に騒ぎ立てる。そんな私の耳に聞こえてきたのは、彼女の冷静な言葉だった。
「ちょっと百花、落ち着いてよ。どうして藤岡部長が百花のウチに来るのかきちんと説明して」
「う、うん。わかった」
少し怖い結衣の声を聞いて落ち着きを取り戻した私は、部長がご近所さんで明日ウチに来ることになった経緯を説明した。
「百花、藤岡部長と会う約束をしてくれたのはありがたいけど……なんて言うか……私、定食よりもフレンチとかイタリアンとか食べたい気分なんだよね」
結衣は竹を割ったようなサッパリとした性格。普段は遠慮しないで言いたいことはズバズバと発言するのに、今はなんとも歯切れが悪い。
「ウチ、ナポリタンならあるよ」
ピーマンと玉ねぎ、ウインナーが入ったケチャップ味の昔ながらのナポリタンは、お客さんにも評判の一品だ。