アナタに逢いました
知らない、知りたいアナタ
「恭哉…」

「こんばんは…」

恭哉はドカッと足を投げ出して席に座ると
キャップを外してふわぁっと欠伸をした

「恭哉くんなんか飲む?」

柳川さんが優しく聞くと恭哉は声を和らげてオーダーする

「じゃ、ビール」

「…あーじゃあオレも欲しいな、柳川さん」

イチさんも便乗してオーダーする

「わかった。きりんちゃん、上がっていいよ」

「はい。失礼しま...「ダメ。きりんちゃんはここにいて」

恭哉は私を見て少し意地悪そうに笑う
そんな顔まで綺麗なんだからイヤになる…

「え…」

「恭哉くん。きりんちゃん着替えさせてあげてよ。そのあと…どうしようとオレは感知しないから」

柳川さんが何だか怖いことを言う

「ん、分かった。じゃ待ってっから」

恭哉は私を見て手を振った
長い指が艶かしく動くように見えて
思わず目を瞑る

「どしたの、きりんちゃん」

イチさんはこちらをニヤニヤして見た

「な、な、なんでもありませぬ」

「ありませぬ…って!」

笑うイチさんを残して
私は急いで更衣室で着替えて身だしなみを整えた

着てきた服は…
白いVネックのニットに朱色のロングスカート

(一応普通で良かったかな)


なんて、何で急に服装なんか気にしだしたのか…私…

「お、きた」

フロアに戻ると…

「あれ?柳川さんは?イチさんは?」

恭哉以外誰も居なかった

「んあ…柳川さんは外の片付けするって。イチは…帰った」

恭哉はテーブルに肘をついてこっちを見る

何も言わない…見詰める瞳がまるでガラス玉のようにキラキラして、その綺麗さに思わず息が止まる

それなのに…無言で手招きした

…それになぜか抵抗出来ずに恭哉の前に座ると

尚の無言で私を見詰めてきた…

居たたまれなくて思わず仰け反りながら声を出す

「ナ、ナニ?」

耐えきれずにそう言うと
急にフニャリと柔らかく破顔するから

ドキッ

心臓がうるさく跳ねた

「やっぱり、きりんちゃんだ」

「え?」

(何をいきなり)

「きりんちゃん、ずっと前だけど…夜の公園で歌ってたっしょ?」

「夜の公園…あ…」

そこで閃いた
会社で彼との不倫だという交際が周りに広まって…責め立てされた頃だ

大人とは思えない陰湿な苛め、暴言

ーー私が何をしたの?

『アンタがユウワクするから!彼は仕方なく遊んでやってたのよ』

ーー誘われたのは私の方なのに

『結婚しても切れないとかどういうつもり?』

ーー結婚してた事にも気付かなかった

...ただ恋をしていただけだった

理不尽な扱いにもう耐えられなくなって退社した夜

私は蓮池のある公園で泣きながら歌ってた
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