アナタに逢いました
まず、入ってきたのはご近所の老人の方々…

それぞれにお気に入りの席が決まっていて
みんな静かに座っていく

続いて駅の反対側にあるオフィス街へ向かうビジネスマン
が続々とやってくる

彼らは一様に仕立ての良さそうなスーツに身を包み
カウンターでエスプレッソ、カプチーノ、カフェラテなどを数分で飲んで退席していく

「あ!やっほー。きりんちゃんおはよ!
オレカフェラテで」

「お早うございます町山さん」

席に座ったのはいつものビジネスマン?
来る時間はまちまちだが、週2、3回は現れる

光沢のある細身のグレーのスーツにチョコレート色のネクタイ、黒縁眼鏡の男性は…
髪型はピシッと七三分けだけどかなり茶色い髪の毛…
普通のビジネスマンではないのだろうか?

「いい加減名前覚えてよ、村田ね?村田!」

「はい、倉田さん」

ガクッと項垂れる倉田さんに私はニッコリ笑って見せた

「無駄ですよ、村田さん
きりんさんはお客様の名前を覚えないので有名ですから」

「みたいだね…なんか、うん」

横から田中くんが声をかけて通り過ぎた

「ごめんなさい…悪気はないんです…私の頭の回転が悪くて…町山さん」

「だから村田ね?…ま、いいや
きりんちゃんはさ、元OLさんなんでしょ?なんでカフェに来たの?」

(痛いとこつくな…)

「前の職場をクビになったからですよ?
落ち込んでるんですから、傷を抉らないでください」

「へー!じゃあ傷心のきりんちゃんに…これあげる」

村祭さんはガサゴソ鞄を漁って、中から紙を出した

「これ、仕事仲間から貰ったの
でもオレ…あんまり分かんないし…きりんちゃんは好きかな…どう?こういうの気分転換に」

「美術…個展?」

「あ、グループ展みたいよ」

(んんん…コレは…)

「有り難く頂戴します」

村山さんがくれたのは見れば…私の大好きな『青』をモチーフにしたグループ展だった

興味があるので明日の休みにでも行ってみよう

「うん」

私は名前が中々覚えられない。店長の柳川さん、田中くんも毎回ロッカーに名前を貼って覚えている
し…実は名札も確認している


これが元で仕事も上手く行かなかったし
出ているタレントさんも俳優さんも名前が分からないからテレビも殆ど見ない世間からズレた私…

「仕事の手順が覚えられて笑顔で仕事出来るなら問題ないよ」

そう言って、変わり種の28歳を拾ってくれた柳川さんには感謝しかない

「きりんちゃん!出来上がったよ、頼むねー」

「はい!」

だから、私は精一杯ここで働くのだ
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