アナタに逢いました
La traviata
「…りんちゃん…きりんちゃん」

柳川さんに話しかけられビクッとした

「はい…?」

「どしたの?なーんかうわの空だよ?ほら、水…」

言われて手元を見るとピッチャーの水が溢れてる…

「あ、うげっ!ど!」

「落ち着いて、落ち着いて…もうすぐ昼休憩だから田中くんと交代して入ってね」

「はい… 」

カフェのお昼休憩は13時から交代で取る
お客様がちょうど13時から14時半位まで落ち着くからだ。15時を過ぎるとティータイム、18時を過ぎるとナイトタイムになり、アルコールも提供する夜カフェへ姿を変える

(営業時間長いのよね…『休み中』のクセに)

今は14時少し前、田中くんが戻ってきたら私が休憩だ

「戻りました!きりんさんどうぞ行って下さい」

田中くんが入ってきて、エプロンをキュッと巻いた
…指定のブラウンのキャスケットが少しズレていて

「あ、帽子ずれてるよ?」

位置を直してあげると

「有り難うございます」

ニコっと可愛く微笑む田中くんに
私はなんて女子力が高いんだと感心する

お店からもピンクのため息が聞こえる
柳川さんだけでなく、美青年田中くん目当てのお客様がいる事に最近気が付いた


帽子とエプロンを外し控え室でさっさと賄いを食べて…
後ろの入り口から外に出ると
裏手に小さな遊具もない公園があり、そこあるベンチに腰かけた

「♪~」

だーれも居ないベンチであの歌を歌う
恭哉にズレてると言われた歌…

(なんでキスなんてしたんだろ…)

青い…希望のきりんを見てから数日ぼんやりと思っていた

私は無知なために道を踏み外した女で…

(届かなかったんだもん)

好きになった人には婚約者が居て
…しかも知らないうちに結婚していた…

『知らなかったって、
私、同じ苗字になったのに気付かないの?』

(名前…覚えらんないんだもん…)

みんながそれを責め立てた

『知らないじゃ済まされない』

本当にそうだよね…

彼ははじめから私なんてただの火遊びだった

踏み外すも何も…道は初めから無かったのに


「だぁから、Aが低いよ…」

「恭哉…なんでここにいるの?」

紺色の上下に紺色のキャップ姿で現れた恭哉は
今日は顔が少し白い気がした

「ん?散歩?珈琲飲みに来た…
きりんちゃん、外だって聞いたから」

「ふうん…」

私は目を瞑る…何だかクラクラしたからだ

「恭哉、いい匂いがする…」

「んあ…メイクされたからかなぁ…」

「メイク?」

(なんでするのよ?)

「メンドーだけど、仕事だから」

(は?)
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