アナタに逢いました
「なんで?」

(郵便局員さんが化粧?…配達に行くから綺麗にしてるとか?…いやいやいや…違うな)

恭哉はキャップをパサッと脱ぐと髪の毛を掻き上げた

この間より三割増しの色気を放って見えるのは
先日触れられた…誘われるような唇のせいだろうか

「んー。撮影だから?」

「撮影?」

私が不思議そうにしていると

「きりんちゃん、ホントにオレの事知らないんだね
…まだまだだなぁ、オレも」

「?有名なの?アンタ…」

恭哉はフフと妖艶に笑って隣に座ると私の頭を優しく撫でた

「だから、アンタいや…そこそこユーメーなんじゃん?わかんねーけど。テレビには出てる」

「へー。私テレビ見ないもん…家にテレビが無いから」

(独り暮らしを始めてから買わなかったもん)

「ほー、珍しいね…見たくはならないの?」

「見ても…名前わかんないし、覚えられなくて苦しいし…みんな同じに見えるから…」

私は恭哉に頭を撫でられたまま
あまり話をしない自分の悩みをポツリと呟いた

私は何か欠落しているんだろうか?
昔から名前が覚えられない
上に画面を通してみると顔もあまり区別ができないのだ

「そっか…」

ずっと変人扱いされている私に

…恭哉はただ、黙って微笑みながら頭を撫で続けている

長くて少し骨張った恭哉美しい指が私の髪の毛を滑る

暫くお互いの目を見ていたら…視線が絡み合うように引き寄せられ、いつの間にか距離が縮まる

ドクン

心臓が高鳴る…

(綺麗な目…)

恭哉の柔らかいけれど内に秘めた熱さを瞳の奥に感じながら…

私は動けなくなった

不意に吹いた風に髪が舞い、視線が反れる

風に舞う私の髪の毛を恭哉は指に絡めて…ほどいた

「ふふ。きりんちゃん、やっぱいいな」

「え?」

「いや、また来るよ…じゃね」

恭哉は手をヒラヒラと振りながら
足音もあまり立てない軽い身のこなしで公園をあとにした

「結局なんなの?」

気が付けば休憩時間も終わりに近づき
急いでカフェに戻る…

準備をして店内に入ると

「きりんさん、なんかイイことありました?」

田中くんが小首を傾げながら呟いた

「え?いや?何もないよ…」

(恭哉の事は特に何があった訳じゃないし、嘘じゃないよね)

「な、なんで?」

「ふぅん…ちょっと女の子に見えました。珍しく…」

「なんか失礼じゃない?」

「えへ。あ、オーダー取ってきまーす」

ちょうど鳴った呼びベルに田中くんは素早く反応して逃げた

(女の子…ねぇ…)

恭哉の色気に当てられたかな…

私は食器をひたすら洗って色々流してしまいたかった
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