PMに恋したら
「串焼きうまい! ビール飲みたい!」
「優ちゃんまだ仕事があるでしょ」
「屋台の子たちにも買っていってあげようかな」
「お酒飲んでることがバレたら怒られるよ」
一応は仕事として来ているのだからビールはまずい。けれど優菜のテンションは上がる一方だ。高木さんの仕事をしている姿を見るのは初めてだから楽しみにしているのだろう。
「もう、実弥は本当に真面目なんだから」
そう言いながらフランス料理店が店頭でステーキを焼いているのを凝視する優菜には呆れてしまう。
人混みの合間から車が走っているのが見えた。歩行者天国の終わりはもうすぐだ。
「あ、柴田さんいたよ」
優菜の声に背伸びをして前を見た。人混みの向こうに確かに制服姿のシバケンが立っていた。
「ご挨拶しなきゃね、実弥の未来の旦那様に」
「その言い方やめてって!」
怒る私を置いてはしゃいだ優菜はどんどんシバケンの方に進んでいった。シバケンに会いに行ったのではない。きっと近くにいるであろう高木さんを探しに行ったに違いない。
「ちょっと優ちゃん、待って!」
優菜を呼び止めた瞬間、「うわああああ!」と男性の叫び声が前方から聞こえた。
「何?」
「トラブルかな?」
「調子に乗ったガキがふざけてるんじゃない?」
周囲の人もその叫び声に不思議そうな顔をした。
「きゃああ!!」
続いて聞こえた女性の叫び声に、何かあったのだろうと視線が集まりだした。嫌な予感がした私は人を掻き分け前に進んだ。突然前にいた人が後ろに下がってきて何人も私にぶつかった。
「逃げろ!」
誰かがそう叫んだ瞬間人が一気に走り出した。
「ちょっと、通して……痛いっ!」
私と反対方向に逃げる人と肩がぶつかった。