PMに恋したら
「まあ、想像以上に厳しいお父さんだったけどね」
「本当にごめんなさい……」
シバケンは立派な仕事をしている。学歴や役職なんてどうでもいい。そんなことで評価しないでほしい。
助手席に乗り込もうと車の前に立ったとき「ここでいいよ」とシバケンは傘から出た。
「え? シバケンだけ帰るの?」
驚いて傘を傾けると顔に雨が当たる。シバケンを濡らさないように再び傘の中に入れた。このまま一緒に車に乗って行くものだと思っていた。シバケンの家にとは言わないけれど、この場から離れたかった。
「実弥はこのまま家に戻りな」
「……嫌だ。もう家にはいたくない」
まるで子供のようだと自分でも呆れてしまう。けれどその理由もシバケンに察してほしいのに。
「お父さんに認めてほしいから今は家に戻るんだ。不誠実なことはできないから」
はっと息を呑んだ。私を見るシバケンの目からは意志の強さを感じる。
「実弥を大事にして、真剣だってわかってもらいたい。可能な限り階級を上げて認めてもらえるように努力する。キャリアじゃないから出世するにも限界はあるけど」
「シバケン……」
嬉しかった。それほどちゃんと考えてくれていたなんて。
「お父さんに言ったことは本心だよ」
どういうこと? と首を傾げる私にシバケンは照れたように首に手を回して撫でつける。
「実弥に不自由な生活をさせないから」
この言葉に今度は私が笑う番だった。
「あはは、まるで結婚するみたいな言い方ですね」
そんな冗談は照れると笑うと、見返す真顔のシバケンに圧倒され笑顔を作ったまま固まった。
「考えてるよ」
「え……」
「結婚、考えてるよ。そうなったらいいなって。俺の家で言ったでしょ、二人の未来を考えてるからって」
ぽかんと口を開け間抜けな顔をしている自覚はあった。けれどシバケンの言葉を飲み込めず、口を閉じることすら簡単にはいかない。