PMに恋したら
「実弥さんに良い暮らしをさせてあげられるくらいには出世するつもりです」
ふんっと父が鼻で笑った。
「巡査部長がでかい口をきいたもんだ」
バカにした言い方に反論しようと口を開きかけたとき、またしてもシバケンが私の前に手を上げて制した。
「実弥さんのために可能な限り出世したいと思っています」
きっぱりと言い切ったシバケンの瞳は揺らがない。
「認めていただけるまで努力し続けます」
それに対し父は冷たい視線を外すことはない。
「お引き取りください。しつこいと警察を呼びますよ。そんなことになったら君は困るだろ?」
「いい加減にして!」
父に怒鳴るのはもう何度目だろう。警察官のシバケンに向かって通報すると脅すなんてふざけている。人を見下す父にはもううんざりだ。
「行こう!」
私はシバケンの腕を強引に引いて玄関に向かった。
「実弥……」
母の不安そうな声だって当然無視をした。リビングを出る直前にシバケンは父に向かって「お邪魔しました」と律儀に挨拶をした。
シバケンが玄関で靴を履く間にドアを開けると外は相変わらず雨が降っていた。
「急にお邪魔して申し訳ありませんでした」
母に詫びるシバケンは穏やかな顔をしている。
「こちらこそすみません……」
「もう行こう」
傘を開き、母に挨拶をしているシバケンを急かした。これ以上我が家の親子関係を見せられない。外面しか見ない父が恥ずかしい。父の顔色を窺う母が情けない。憤慨する私を見せて呆れられたくない。
シバケンが濡れないように傘を傾けて中に入れると車まで並んで歩いた。
「ごめんなさい……」
「なんで謝るの?」
「だって、父が酷いことを言ったから……」
「大事な娘の彼氏のステータスを気にするのは親として当然だよ」
そう言ってシバケンは苦笑いした。