PMに恋したら
今までレストラン事業部で働く自分を想像できなかった。何かを望んではいけないと自然と思い込んで動けないでいた。
「このままうまくいくといいね。会社での生き方」
「お互いにね」
優菜も高木さんといい方向に進んでくれたらいい。
部屋の契約は今度の休みに行くとして、両親に家を出ることを伝えようと帰ると父も食事に出ていて帰っていなかった。母に先に打ち明けると予想外に「頑張りなさい」と反対されることはなかった。
「お母さんからそれとなくお父さんに言っといてよ」
「そうね……」
父には直接言うつもりはない。私が黙っていても母はすぐにでも父に報告するのだろうから。父の反応次第では母の態度も変わり反対し始めるかもしれない。
早速荷造りを始めようと読まなくなった雑誌をビニール紐で縛っていたとき、リビングから「実弥!」と私を呼ぶ父の怒鳴り声が聞こえた。
ほら、母はもう父に報告したのだ。
父のどんな命令だって聞くつもりはない。無視してビニール紐をハサミで切ると再び私を呼ぶ煩わしい声がする。怒鳴り合いのケンカになることを覚悟で仕方なくリビングに下りるとスーツを乱した父がソファーに深く座っていた。
「なぜ今更一人暮らしをするんだ?」
酔っている父はいつも以上に横柄な態度だ。
「…………」
「家を出ても援助するつもりはないぞ」
「いらないよ。一人で生活できるから」
「お前まさかあの警察官と住むんじゃないだろうな?」
「違うよ」
いずれはそうなるかもしれないけど、という言葉は言わずに飲み込んだ。
「まだ付き合っているのか?」
「別れないって言ってるでしょ」
何度この会話をしたら気が済むのだろう。私は父の思い通りに動くロボットじゃないのだ。
「家を出ることは許さない」
「え?」
「今更家を出て何になる? 坂崎君と住む家はお父さんが用意してやるんだから、それでいいじゃないか」