PMに恋したら

「これいいじゃん」

優菜が指したのは第一候補にしている物件だ。

「だよねー。私もここがいいと思ってたの」

会社からも近いし家賃も間取りも申し分ない。けれど何よりの決め手はシバケンの家まで電車が乗り換えなしの直通なことだ。シバケンも私もお互い会いたいときに会えるのだ。

「でもさ、一人暮らしなんかしないで柴田さんと一緒に住んじゃえばいいのに」

「うーん……」

それも考えた。けれどいきなりそんなことを言ってシバケンが困るのも嫌だった。シバケンは本気で私とのことを考えてくれているのは分かったけれど、いきなり話を進めて重荷になりたくなかった。彼が考えていると言ってくれたのだから急かしたくはない。

「優ちゃんも異動を前向きに考えたら? 人間関係はよくなるかもよ?」

「そうなんだけど……」

「私も総務課の仕事がやる気になってきたとこなんだ」

「あんなに嫌がってたのに?」

「他の部署とコミュニケーションが取れるようになったから面白くなってきたの。今まで知らなかった部署の仕事が分かって、特にレストラン事業部は楽しそう」

「ああ、確かに内勤は楽しいよ。店舗勤務はお勧めしないけど」

優菜には総務課の仕事は不満だと言っていた。けれどさすがにコネ入社だとは言えなかった。優菜も努力をして就職してきたのに、私だけ親の力だなんて恥ずかしくて申し訳なくもある。

「異動願い出してみたら?」

「え、異動?」

優菜の思いがけない提案に面食らう。

「総務の仕事も良し悪しがあるだろうけど、レストラン事業部は企画からオープンまで成長過程が楽しいからね。オープンしてからも改良していかなきゃいけないから、頭も使うしリサーチもし続けなきゃいけない。忙しいけれど充実はすると思うよ」

「異動か……」

「経理課から総務課に異動したばっかですぐには難しいかもしれないけど、レストラン事業部にくれば?」

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