PMに恋したら
当たり前のように言い放った父に絶句した。新しい家に住みたいわけではない。父はそこを理解していない。まだ私を坂崎さんと結婚させる気でいる父が恐ろしくなった。シバケンの存在をどこまでも否定する。
「そうだ、今度こそ坂崎君と食事に行きなさい。彼も実弥と会いたがっていたんだ。先日の失礼な態度を詫びてきなさい」
「お父さん、坂崎さんはお父さんの所有物じゃないの。もちろん私も。意志があるんだよ。話を聞いて」
父に説教をする日が来るとは思わなかった。けれどもう譲らないと決めたのだ。
「坂崎さんとは付き合わない」
「坂崎君はそのつもりだぞ」
「嘘だね」
あの人だって父に逆らえないだけだ。私を本気で相手にしたいと思うはずがない。
「それがどうした」
「…………」
「坂崎君がお父さんの命令で実弥と結婚すると決めても、実弥を幸せにしてくれると信じているからいいんだ」
「なにを……言ってるの? 坂崎さんの気持ちはどうでもいいの?」
「坂崎君と結婚すれば安泰なんだ。坂崎君も自分の立場や将来を考えてのことだよ」
「バカみたい……」
私は坂崎さんのことを何も知らない。坂崎さんと結婚しても私が幸せとは限らない。坂崎さんは父に取り入るために好きでもない私と結婚する。父は私が望まない相手と一緒になることを望んでいる。
「理解できないよ……」
「実弥も坂崎君を支えなさい。彼は今後会社に大いに貢献できる人材だ」
「嫌だ……」
「仕事も辞めていいんだ。家庭に入りなさい」
「お父さんが決めたくせに!」
早峰フーズに就職をと決めたのは父だ。勝手に就職先を決めて勝手に辞めろと言うのか。やっと現状を受け入れてきたのだ。私にしかできないことを見つけようとやる気になっていた。