PMに恋したら

卓上カレンダーで明日の予定を確認する。日付の横に小さく書かれた『△』のマークに頬が緩む。今日シバケンは非番の日だと気がついた。もし起きているなら今夜も電話したい。

シバケンの仕事のサイクルが一目で分かるように当直の日は『×』、非番の日は『△』、週休の日は『○』を日付の横に小さく書きこんでいた。
非番や週休だからといって頻繁にシバケンに会うわけではない。お互いの休みが重なることが少ないので声だけでも聞ける可能性がある日だから心が踊る。

少しでも早く帰って夕食を食べてお風呂に入って、ベッドに潜ったら電話をするのだ。眠くなるまで声を聞いて、お互いに「おやすみ」と言って彼の声を耳に残したまま眠りにつきたい。





家に着きドアに鍵を差し込むと施錠されていないことに気がついた。中には母が、恐らく父も帰ってきているだろうが、無施錠なんて無用心だなと呆れて中に入ると玄関には見慣れない男性用の革靴が揃えて置かれていた。その持ち主が坂崎さんであるとは容易に分かる。それを見て驚いたのは坂崎さんが来ていることにではなく、父が懲りずにまた我が家に招待していることに呆れたからだ。

もう帰ってきてしまったけれど、このまま外に出てどこかで夕食を済ませよう。また父とケンカになり、坂崎さんに嫌な思いをさせてしまうだろうから。
脱ぎかけたパンプスを再び履いてドアノブに手をかけたとき「実弥! こっちに来なさい」と父がリビングから私を呼んだ。帰ってきたことに気づかれてしまったようだ。呼ばれても行くものかとドアを開きかけたとき「実弥」と今度はキッチンから母が出てきて呼び止められた。

「おかえり。ご飯食べよう」

「外で食べるからいい」

「これから一人暮らしをしようってのに、外食してお金使うのはもったいないでしょ」

「…………」

穏やかな顔をして私を見る母に言葉がつまった。

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