PMに恋したら
「無駄なことにお金を使わないで節約した方がいい。今夜はうちで食べなさい」
「でも……」
「坂崎さんは仕事の話でうちに来たのよ。実弥に会わせるためじゃないの。一緒にご飯は食べるけど、仕事が終わったらすぐに帰られるから」
「…………」
珍しく私を説得する母に反抗する気持ちも失せた。
「話したくなければ何も言わなくていいから。でも坂崎さんには失礼なことをしてはだめよ。お父さんの会社の社員さんなんだから。あなたも社会人なら分かるでしょ」
「そうだね。しょうがないから諦める……」
ただ座って母が用意した食事を口に入れる。食べたらすぐに部屋に引きこもろう。母の説得に素直に応じた。しかし今まで口出ししてこなかった母がどうして今急にこんなことを言うのだろう。
「なんで今さらお母さんが間に立つの?」
母への疑問が湧いたところに「母さん! 実弥!」と私と母を呼ぶ声がリビングから飛んでくる。それに返事をしながら母は笑った。
「最近のお父さんは確かにやり過ぎね。お母さんも呆れるくらい」
母は腰の後ろに手を回し、エプロンの紐を解く。
「もう実弥の好きなようにやりなさい。お母さんは応援するから」
首にかけたエプロンの紐をはずすと小さく畳んだ。
「でもお父さんも実弥のためを思ってお節介しているのもわかってあげて」
「……そんなの迷惑だよ」
「二人で思う存分ケンカしなさい」
他人事のように言う母に再び怒りが湧く。
「いつだってお母さんは味方になるから」
この言葉にもう遅いと思わず母を睨んでしまった。味方になってほしかったタイミングはたくさんあった。子供の頃からだ。母の助言があれば、少しでも違った未来があったかもしれないのに。
返事をすることなくパンプスを脱いで母の横を抜けてリビングに入った。
「こんばんは実弥さん。お邪魔しています」